2016年12月01日

コラム「換気システムの課題とこれからの住宅換気」・その2

【コラム】北海道科学大学工学部建築学科教授・当会副理事長 福島明先生
「換気システムの課題とこれからの住宅換気」

2.24時間換気装置は働いているか?−換気装置が働かない訳−

 ズバリ言いましょう。まともに働いている24時間換気は、極めてまれです。働かない状況や理由は様々ですが、根本的な理由は、人が室内空気質に対して鈍感であるということです。テレビ番組の情報ですが、100戸程度のマンションで、何人かの主婦の方を目隠しし、幾つかの住戸を廻るのですが、全員が自宅を言い当てるのです。特有の匂いがあるから、と思われがちですが、そうではなく、自宅だけが臭わないのです。人間の匂いに対する順化はとても強力で、初めての人には感じても、住んでいると全く匂いとして認識しなくなるのです。換気量不足がクレームにならないのはこれが理由です。暖房や冷房、給湯など、他の住宅設備はほんの少しの不調でもクレームですが、換気が多かろうが少なかろうが、居住者はなかなか気付かないのです。
 換気の重要性は誰もが認めるところです。人間が体内に取り入れるものの中で空気が圧倒的に大きいことや、ほとんどの時間を建物内で過ごすこと、果ては換気不足になると子供の勉強能率が下がるなど、専門家はいろんなことを言いますが、必要性を感じない以上、まさに笛吹けど踊らず、という状態です。換気装置を意図的にあるいは無意識に止めている、スウィッチを切っている住宅の割合はどれほどでしょうか?調べたことがありませんが、多数派であることは、容易に予想がつきます。
換気装置が稼働し続けるためには、まず止まる訳を考えてみなければなりません。

■止まる訳 その1:住んでいる人が止める

 最初に止める理由はとても簡単です。不快だからです。寒いから、音がウルサイから、乾燥するから、電気代がかかるから。電気代がかかるという感覚は、不快さの一部ですね。動いている事自体が苦痛なのです。そして、一旦止めてしまうと、室内環境は感覚的には何も変わらない。むしろ、止めている時には換気の運転による不快感がないわけですから、再度運転すると、よりその不快さが気になります。熱交換換気を止めていて結露し、連続運転するようお話しても、寒くて我慢できないと言って運転してくれない居住者は少なくありません。結果は明白、止まったままになる装置が増えてゆくのは自然の摂理です。

■止まる訳 その2:掃除をしない

 「換気装置は掃除が必要です。」と言われたって、誰が喜んで掃除するでしょう。家事の中でも、最も不快でつまらない作業の一つではないでしょうか。図は、熱交換換気システムが設置されていて、少なくともスウィッチを切っていない住宅16戸の換気量を調べたものです。最低はゼロから、多いところは0.7回/hです。平均は0.2回/h程度ですから、お世辞にもちゃんと働いているとは言えない状況です。設計も適当・掃除もなし・検証もなし、では、当然の結果です。長年住んで、電気代を消費して、換気がゼロというのはあまりにももったいない。それでもご本人にとっては不都合なく暮らして行けているのですから、換気とは一体?


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図 換気装置の換気量


 先日、パーソナル空調に取り組んでおられるデンマーク工科大学のメリコフ教授に特別講義をしていただきました。写真のようなアイディアですが、空調システムがフィルターだらけになるけど、メンテナンスは?と質問したところ、「空調システムのフィルターメンテナンスなんて、誰もしてない。むしろ一人ひとりだと自分で責任を持つから、その方が良い」とのお答えでした。もちろん全てのシステムがそうだというわけではありませんが、専門家からそうゆう言葉が出るほど、フィルターメンテは行われなくなるリスクが高いということなのでしょう。

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パーソナル換気 デンマーク工科大学メリコフ教授、特別講演から



■止まる訳 その3:設計・施工が悪い

 その換気設備、ちゃんと設計・施工されていますか?換気システムは、様々なパーツで成り立っています。純正品をすべて使って、メーカーの言うとおり設計し、施工されている装置は、決して多くはありません。何故?高いから。適切な設計施工をして、風量検証まですれば、そんなに安い訳はないのです。換気は「安かろう・悪かろう」になり易い設備です。なのに、設計施工で風量検証をしている会社で設計・施工されるものは、本当に少数ですね。

 換気装置が稼働し続けるために何が必要か、そもそもそれは可能なのか?私にとって終わらない課題です。


posted by パッシブシステム研究会 at 11:18| Comment(0) | コラム
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