2017年09月21日

コラム「換気システムの課題とこれからの住宅換気」・その5

【コラム】北海道科学大学工学部建築学科教授・当会副理事長 福島明先生
「換気システムの課題とこれからの住宅換気」

4.自然換気という選択

 シックハウス新法ができて、機械換気でなければダメ、とお考えの方が多いのではないでしょうか?
 法律は、機械換気の設置を義務付けていますが、自然換気を禁止しているわけではありません。
 自然換気で換気が確保できる時に自然換気を有効に使うことは、省エネルギー上からも、推奨されるべきことなのです。

■自然換気の系譜

 内外の温度差(煙突効果)を利用した自然換気は、世界中でその実例をみることができます。日本の伝統的民家では、棟に排気のための開口を設け自然排気を行う手法が共通してみられる(写真1)し、欧米の古い住居では、住宅の屋根上には排気塔林立しています。
 高温乾燥の気候で知られるイランでは一般住居のほとんどに自然換気用煙突、バッドギアが備えられています(写真2)。温暖な気候のバルセロナに建つガウディー設計の住居に見られる排気トップのデザイン(写真3)はあまりにも有名です。自然換気自体は、これらの例を待つまでもなく、生活の知恵として古くから利用されてきた、住居の基本的な技術なのです。


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写真1 日本の民家(タギ氏)


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写真2 イランのバッドギア(タギ氏)


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写真3 ガウディの排気塔


■日本の木造住居と自然換気

 日本の在来木造住宅は、欧米の住宅とは建物に対する姿勢が根本的に異なります。“夏を旨とすべし”とは、日本の住宅づくりの教えですが、意図的にあらゆる部分に隙間を作り、湿気の外と内との区別を徹底的に無くすことを目指した技術です。床に使われる畳は最も特徴的で、床下からの空気や湿気を速やかに通すことで耐久性を保ちながら室内の通風にも寄与しています。こうした隙間換気は、室内に空気のよどみをなくし、絶えずすべての部位が空気にさらされる構造を作り出しています。
 こうした床面の隙間から外気をバランスよく取り入れる、優れた日本の木造住宅の特性を気密化住宅に再現しようと、基礎断熱工法の床下を給気チャンバーとした方法を提案しました(図1)。床下を利用し、内壁や床周りを従来通りの工法で作り上げることによって、日本の木造住宅の特質を断熱気密住宅に取り戻すことができました。床下空間から室内に空気を導入することに抵抗もありますが、もともと日本の住宅では室内空気の相当量が床下から供給されてきましたし、断熱や気密層がなく、隙間だらけの床で仕切られた室内と床下空間との間に違いがあるとは思えません。変動は有っても連続した換気と安定した空気の流れを実現し、機械換気の持つ運用や保守に関わる不安をほとんど持たない運用上の信頼性が極めて高いシンプルなシステムとなりました。自然の変動はむしろ望むべき方向で、居住者の空気質に対する感覚の鈍化を防ぎ、換気の行動に向かわせることも期待できると考えています。


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図1 パッシブ換気のアイディア


■中間期と温暖地

 住宅の断熱化は、室内外に自然の温度差を拡大し、温度差を動力とする自然換気の利用範囲を大きく拡大しました。札幌では、盛夏の二ヶ月を除いて自然換気が可能になったし、温暖地でも自然換気の可能性が高くなりました。図2)は、札幌における年間の自然換気量です。暖房していない期間の内外温度差は10℃程度です。これは温暖地に建つ断熱住宅で生じる中間期の温度差そのもので、寒冷地と温暖地の差は単純な開口設計の問題なのです。断熱性を高めた住居では、自然温度差が拡大し、オーバーヒートの可能性が高くなります。断熱化や日射取得熱の増大といったパッシブ的な省エネルギー対応は、室温上昇をいかに押さえるかという課題がつきまといます。温度差を主要な換気動力とする自然換気は、室温上昇時に換気量が増大し、大きな排熱効果を期待できます。一見無駄に捨てられるエネルギーに見えますが、温度上昇時に換気量を大きく高めることは、自然エネルギーの有効な活用方法の一つなのです。一定換気ではなく、室温変化に応じて換気量を自動調節可能な技術を機械換気で実現する事は容易ではありません。これこそ、自然換気の優れた特性なのです。


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図2 パッシブ換気の年間変動


■宇宙船と民家

 断熱気密化は、大手ハウスメーカーにも広がり、 高性能な住宅を提供する地域工務店にも手ごわい相手になってきました。 彼らが目指す住宅とそれとは対極の住宅を、宇宙船と民家に例えて比較してみました。(表1)  
 地球の大気や海洋が宇宙の変動を緩和し、すばらしい自然環境を私たちに与えてくれているように、変動に満ち溢れた自然環境を許容できる範囲にとどめるのが建築の役割です。
その変動を外乱と呼び、一定環境を理想として機械に頼ってそれを実現しようとしていうのが宇宙船型住宅です。窓はもはや外乱でしかなく、熱も日射も遮断し高性能な設備で室内環境を作り出すという考え方です。徹底的に外乱を排除し、日射のエネルギーは太陽電池で発電し、バッテリーで蓄えて利用します。これに対して、建物の工夫によって機械への依存を減らし、穏やかな変動を実現することを目指す住宅を民家型としました。
自然換気はそのキーアイテムとなりえます。地域工務店がいかに戦うのか? 自然換気をきっかけに考えてみるのもよいかもしれません。


表1 宇宙船型住宅と民家型住宅

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(つづく)

posted by パッシブシステム研究会 at 08:07| Comment(0) | コラム