「換気システムの課題とこれからの住宅換気」
6.暖房・冷房と換気(最終回)
住宅の換気を計画する時、暖房・冷房との関わりは、とても大切です。換気を味方につければ快適性もエネルギー性能も格段に高まりますが、配慮なしに計画して、暖冷房の設備と喧嘩する結果になれば、快適性もエネルギー性能も阻害される結果になります。高性能住宅では、暖房に必要なエネルギーの半分以上を換気が占めるのですから、当然ですよね。暖房・冷房と換気の関わり、そして快適な室内環境と換気について考えてみましょう。
■床下暖房と換気
住宅の断熱気密性が高くなると、設備が変わります。換気と床下暖房との出会いは衝撃的です。(写真1-3)のように、ベランダ窓の下に床下暖房をしたら、床の表面温度が室温より少し高い温度で、全く均一な温度となりました。どんな高度な床暖房設備でも実現することが難しいのではないでしょうか?ここに外気を入れることで、換気による寒さを完全に防ぐことが出来たのです。私は自然対流派ですが、最近多くの技術開発がされていますから、お好みのものを試してみるのも良いかもしれません。基本は高断熱高気密です。それさえ守っていれば、失敗のリスクはとても少ないのです。基礎断熱にまつわる床下の湿気環境の悪化を心配される方も少なくありません。床下暖房で床下を室内に開放し、冬の間に徹底的に乾燥することで、そうした心配を解消する上でも、期待大です。
■熱回収換気は暖房器?
最近あるハウスメーカーと新たな熱交換換気システムを開発しました(図1)。もともと電機メーカーが開発した装置をベースにしていますが、制御の方法と給排気の方法が独特です。まず装置は基礎断熱した床下に、そのまま床下に熱回収した空気を供給します。床下空間をチャンバーとして各室に供給するシステムです。
特徴的なのが、外気温度で熱回収をしたり止めたりすることと、機械換気量自体を制御することです。こうすると冬は暖房、夏は外気冷房として機能します。熱交換換気装置は暖房器なのですから、夏は使っちゃいけないですよね。冷房を始めると熱回収換気に戻るのですが、その期間は本当に極わずかです。ダクト配管を極力排し、風量を適切にコントロールした結果、電気代は3種換気と同等以下で高い省エネルギー性が期待できるシステムになりました。
最も注意しなくてはならないのが、フィルターです。床下に別置きフィルターボックスを設置しています。フィルターの床下設置は、保守行動を誘発します。私達が調べたところ152軒中、150軒のお宅で適正に清掃されていました。今後は、電気集塵(写真4)などフィルターリング性能に優れた装置を加えることで、更に保守負担を減らし高い空気清浄性を確保することが期待されます。
熱回収換気装置はまだまだ多くの改題を抱えていますが、工夫次第で安心で高い効果が期待できるものとなります。
■夏換気をどう考えるか
夏は通風、と考えていませんか?縁側の障子を開け放っての通風をイメージしますが、外部環境の悪化やプライバシー、狭小な敷地が当たりまえの昨今の住宅地では、もはやこうした通風は、快適でもなければ気持ちのよいものではありません。これからは、熱気を排出する換気と、空気質を高めるための気持ちのよい換気を考えるべきときでしょう。
図2は、夏を涼しく過ごすための基本的なアイディアです。しっかり断熱をすると、壁や屋根からはほとんど熱は入ってきません。僅かな日よけの工夫があれば、少なくとも外気温度が30℃を超えなければ、涼しく過ごすことができるはずです。そして、おすすめしたいのが高窓を一つ設けること。これを夏の間はいつも空けておく。これだけで、必要十分な換気が確保されます。図中の写真は、私の自宅ですが、寄棟の最上部に塔屋を作り、突き出しの窓を一つ、これを6月から9月まで空けておきます。これだけで、空気がどれだけ気持ちよく、そして涼しさをもたらすことか。この時、注意が必要なのは、高窓の位置です。必ず、天井面ギリギリの高さに設けること。天井付近に熱い空気が溜まると、天井面の温度が高くなり、輻射暖房のようになります。
図3は、斜め天井と平天井で空気がどのように流れるか実験したものです。天井付近にたまった熱を上手に排出することができれば、冷房時に、空気の温度をさほど下げなくても快適な輻射環境を実現できると考えられます。これを熱対流換気と呼びますが、開口は1面配置が原則です。2面に設けると、通風換気が多すぎて、開閉操作が必要になりますし、塵埃や花粉など風に乗って入ってくる物質が入ってきてしまいます。
高断熱高気密な住宅では、夏の通風ではなく換気を考える事が大切だとお分かりいただけたでしょうか?
出展:外気冷房のための窓設計ガイドライン(北方建築総合研究所配布パンフレット)https://www.nrb.hro.or.jp/pdf/ventilation.pdf
■住宅の最後の仕上げとは?
私の恩師がこんなことを言ったことがあります。『温度は建築の最後の仕上げだよ』
温度とは、室内環境を代表するもの、と考えて良いですね。北海道では住宅の断熱気密化が進み、温度環境は黙っていても快適な『仕上げ』、ができるようになりました。今、全国で健康住宅への関心と関連して高断熱を普及しようとしていますが、なかなか広がりを見せていません。北海道で家を持つ人は幸せです。
さて話を元に戻して、温度の仕上げが終わっても、環境の仕上げが終わった訳ではありません。空気の仕上げです。温度と同じように多少みっともなくても(空気が汚れていても)、慣れてしまえば暮らして行くのに不都合はありません。人間は、寒さ暑さは感じ易いのですが、空気の質には鈍感なので、ひどい空気の中でも気付かず暮らしている人が大勢います。でも、「直ちに健康を損なう訳ではありません」。何処かで聞いたことのあるフレーズですね。要は、人や建物の健康障害リスクが高まるということなのです。現れるまでとても時間のかかるリスクですから、多くの方には実感できないのです。
本当の高性能住宅を手に入れた方たちには、是非、建物の最後の仕上げ、空気を守る換気にもう少し配慮とお金をかけてほしいと思います。
(おわり)